判決

審査請求の有無

取り消し訴訟は、都市計画法501項及び5252条により開発審査会の判決を得た後でなければならない。

本件訴えは、「個別的利益が開発により侵害されている」として取り消しを求めている。しかし、原告それぞれの利益は別個のものであり、審査請求した者としていなかった者の両者が一体とは考えられない。従って、審査請求をしなかった者の訴えは却下する。

 

原告適格について

行政訴訟法

自己の権利または法律上保護された利益が侵害された又はされる虞がある場合は、当該処分の取り消し訴訟の原告適格が有る。

 

都市計画法3312号(環境保全上、災害の防止上、通行の安全上)

開発区域内の空き地の確保や区域外への道路の接続の具合などが不十分な場合には、近接する一定範囲の地域の住民は火災などの災害で生命・身体の安全が犯されることがある。従って、直接的被害が及ぶ可能性が想定される区域外の一定の範囲に居住するものは原告適格を有する。

以上より開発区域から6m、10mの居住者は適格性有り、50m以上の居住者は適格性無し、と判断された。

注、シティコーポ平針台居住者は全員10m。次に遠隔者が50mだったので上記判断となっており、具体的に何メーターが可否の区切りかには言及無していない。

 

都市計画法331項3号(排水路等からの被害)

開発地域より低地に位置する1名のみ溢水による直接的被害が予想されるので原告適格を有するが、その他の者に認められない。

 

都市計画法3317号(地盤沈下、崖崩れ等による被害)

高低差、勾配、位置関係よりいずれも崖崩れ等による直接的被害は予想出来ないので、全員について原告適格無し。

 

都市計画法3319号(植物の育成、樹木の保存)

保存措置が講ぜられなくとも、広い意味での環境悪化は有っても直ちに周辺住民の生命身体の安全や健康が脅かされることまでは想定できない。この条文は周辺住民の個別的利益を保護する趣旨ではない。開発の目的、規模、周辺の状況等勘案して保存措置を講じなくても良いとの規定もある。

生物多様性基本法、環境基本法、都市緑地法、他は基本理念を述べたもので、周辺住民の個別的利益を保護するものではない。

以上より、全員原告適格は認められない。

 

境界未確定のよる所有権侵害

都市計画法や施行令、規則には、周辺住民の土地所有権を個別的利益として保護する趣旨は無く、原告適格は認められない。

 

結論

以上より11名について原告適格を認めるが、その他の者は原告適格は認められず訴えを却下する。

 

開発許可の適法性

接続先道路の幅員・工事車両の車幅制限

関係法令の規定では開発区域の2箇所で区域外の道路と接していれば良く、2箇所以上で6.5m以上の道路と接しなければならないとする原告の主張は妥当ではない。

本訴訟の審査対象は開発許可そのものが違法性か否かである。開発許可後の工事内容や、その後に行われた変更許可が違法なものかどうかは、開発許可の適法性を左右するものではない。

  

道路の勾配

小区間であれば勾配12%が認められている。規格の9%を超えているのは50mで全体の2.3%に留まっており規則の要件を満たしている。

 

排水施設

降雨量、流量計算、調整池容量、排水路、いずれも法が定める技術基準を満たしている。

雨水が調整池に入らず南側に流出する可能性の指摘については、証明するに足る証拠が無い。本地区に毎時80mを越える雨量があったことを証明できる資料もない。

 

擁壁、地盤改良 

西側隣地は本開発行為により開発地域より低地となる箇所はなく、隣地擁壁は所定の基準に基づいて設置されたものであり、開発工事で崖崩れ倒壊が発生するとは言えない。

本開発工事により急傾斜箇所が出現するとは認められない。

開発地域内の崖崩れ等の危険については、法や施行令、施工規則などの基準により審査されているので、崖崩れ防止に必要な措置が採られていないとは言えない。

 

樹木の保全

開発の目的、規模、周辺の状況等勘案してやむをえない場合は保存措置を講じなくても良いと認められている。

全体の11%が緑地と公園として計画されており、なだらかな傾斜地上の森林を保全した上で森林造成等も計画されている。樹木の保存が部分的にとどまったとはいえ、違法であるとは言えない。

 

開発申請者の資力・信用

資金の返済能力に問題があると認めるに足る証拠がなく、同程度の規模の事業実績も必要不可欠の要件ではないので、申請者としての資格を満たしていないとは言えない。

 

工事施工業者の変更による能力の問題

本件訴えの審査対象は開発許可の違法性であり、申請された工事業者は鴻池組で工事完成能力は有る。

 

虚偽申請の問題

開発許可は許可申請に基づいて行われる。申請者が小学校等別の計画を検討していたとしても、開発許可の適否とは関係無い。

 

隣地境界未定

法令上、関係区域内の各土地について測量が行われていることや、周辺地との境界が確定していることは、開発許可の許可要件とされていない。

 

結論

原告らの請求は、いずれも理由がないからこれを棄却する。