訴状の要約

開発行為による自然破壊の違法性

 この里山は絶滅が危惧される希少動植物が生息し、生物多様性を考える上で重要な場所である。また天白地区の原風景を残していて、高い文化的価値を持っていて、都市において極めて重要な緑地である。

 今日では自然生態系は高い公共性を持つ。環境基本法の3条には「人間の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない。」と謳っている。

 名古屋市も20億円もの巨額に資金を拠出して保存に努めようとしたことは本開発区域の重要性を認識していることを裏付けるものと言える。

 全ての行政行為は公共性を持つことで合法化される。自然のもつ高い公共性を考慮すれば、このような良好な自然を破壊する行為は違法で取り消しうると考える。

 

道路の違法性

 都市計画法施工例第25条により、開発面積からして最低2本の道路が外部と接続していなければならない。そして外部の接続先道路の幅員は9m以上、やむを得ないと認められる場合でも6.5m以上が必要である。しかるに1本は6.0mしかなく、1本は9mに拡幅されることになっているが、拡幅されることなく6mのままとなる可能性が高い。(2011年12月に6mへの変更が認められた)

 都市計画法施工例第25条により開発区域内の道路の勾配は9パーセント以下であること、やむを得ない場合は12パーセント以下、と規定している。外部の道路と接続する主要な道路の半分以上が9.58%であり、短い区間で直角と直角を超える2つの曲がり角がS字状に連続していて、急勾配と相まって見通しの悪い危険な道路となる可能性が有る。

 

虚偽申請の可能性

 市に申請された計画は全部が分譲住用の宅地であるに関わらず、開発業者は地元での説明会で、開発区域のほぼ半分は私立の小学校の用地であると説明した。マスコミ公開のもとに行われた業者、住民、市の3者協議の場においては私立小学校の建設を予定した学習塾の代表者も出席し設計図面も完成していた。開発申請者はビジネス誌で宗教団体や老人ホームの誘致にも言及しており、住宅開発の意志が有るのか疑問である。

 開発申請の審査に於いて、宅地である場合には審査基準が緩和されることが多い。許可の得やすい宅地で開発許可を得た後で開発計画の変更が認められるとすれば脱法行為とも言うべき悪質な行為である。このような状況は市も把握していることであり、再申請をするよう指導すべきであるが、それは行われていない。

 以上よりこの開発申請は虚偽申請であり申請者の「信用」が無いことは明らかであり、事実と異なる申請であることを承知のうえで許可を出したことは都市計画法33条に違反している。

 

里道の問題

 開発許可申請時に提出すべき設計図は実測図に基づいて作成していなければならない。ところが里道については実測が行われていない。この里道は開発区域と区域外の境界になる箇所もあり隣地所有者の所有権を侵害するおそれがある。

 自治体の財産には行政財産と普通財産が有り里道は前者に該当し管理及び処分が厳格に規定されている。開発許可に至る手続きに於いてこの里道の廃止手続きはなされていない。道路の現況を何ら把握していないので、適正な廃止の手続きが出来るはずもない。特定の適正な手続きを減ることなく行政財産が民間営利業者に取り込まれることは行政財産の管理者としての管理義務を怠っている。

 

隣接地所有者の財産権への影響

 都市の健全な発展や秩序ある整備などを考えると、開発予定区域内の各筆土地の測量が適切に行われ、かつ周辺地との境界が明確になっていなければならない。上記のように里道の測量が行われておらず、道路の幅や隣接する土地との境界が定まっていない。発見された古い境界石杭と業者が建てた境界杭と位置がずれているところも有り、隣接土地所有者の権利を侵害している可能性が有る。このような状況で開発が許可されてことは違法である。

 

名古屋市の反論の要約

開発区域の主要な道路について

 主要な道路でなくとも2箇所以上で外部道路と接続していれば足りる。

 「主要な道路の接続先道路については幅員6.5メートル以上(開発区域の周辺の道路の状況によりやむをえないと認められるときは、車両の通行に支障がない道路)であればよいところ、本件開発行為の場合は、主要な道路の接続先道路の幅員は9メートルとなっている。

 

道路の勾配について

 オーバーするのは開発区域内の道路の総延長(約2000m)の内の50mに過ぎず、施行規則の「小区間」に該当する。規定に違反しない。

 

虚偽申請(小学校建設の計画)について

 開発計画が有ることは聞いていたが、直ちに実現出来る計画ではないと認識していたし、あくまで計画段階と聞いていた。

 結果的に建設計画は開発許可時点では無くなっていたのだから、開発許可の適否とは関係ない。

 

里道について

 代替機能を有する公共施設が設置される場合従前の公共施設と交換される、との趣旨の特例を定めた規定が適用される。

 

土地の境界が不確定について

 開発許可申請に当たっては、開発区域の位置、規模が明確になっていれば足りる。区域内で各筆土地の境界画定は所有当事者で解決すべき問題で、開発許可の適法性とは関係ない。

 

樹木、表土の保存について

 講じるべき環境保全の態様は開発行為を行う前の開発区域の状態に大きく支配されることになるので、全ての開発行為において同一水準の樹木保存又は表土の保存を担保しようとするものではない。

 本開発行為は丘陵地における分譲住宅の建設が予定されているため、各宅地における樹木の保存措置を行うことは困難であったようであるが、開発区域の東部には、緑地が確保されており、自然環境の保全に一定の配慮がなされていた。